風の星
…無駄だと分かっていても、諦めきれない想いがある。
太鼓と笛の音色が交響曲を奏で、吊り下げられた灯籠の柔らかな光が、訪れた者達を年に一度の祝祭へと招き入れる。
家族連れや恋人同士が華やかな雑踏を過ぎ去る中、ただ一人だけぽつんと寂しげな背中を覗かせる少年の姿があった。
大切な人を失った深い悲しみにより挫折し、希望の標もない迷宮に入り込んでいたのだ。
ふと、出店に陳列された花火を見やる。思い起こされるのは、かつて自身に寄り添っていた少女の笑顔。
懸命に生を掴もうとしていた、あの情緒ある姿。きちんとした別れの言葉さえ伝えられないまま離れ離れになったが為に、強い後悔が少年の胸に今も尚刺さっている。
ここへ来れば、また会えると思った。
なんの意味もない言葉を口にして、短冊を吊るした大木へと足を運んだ…その時だった。
雑踏の中心に映ったそれは、平均よりやや低めの背丈に、髪を短く二つ結びにした後ろ姿。見まごうはずもない。自身の大切な…大切な人。
もう世には存在しないはずの幻影を追う為、無我夢中で駆け出し人混みをかき分けて突き進む。道すがら他者にぶつかった際、放たれた怒声を背中に受けるも、走っている最中に掻き消えた。
肩で息をするほどに全力で抜けた先には、あの日見た小さな岬。周囲の人間はまばらで、各々が思い思いの方法で輝く星々を眺めている。
少年は必死の形相であらゆる箇所に目を向けた。他人に怪奇の視線を浴びようとも気にも留めず。
時間にすればほんの数分だが、少年は力を使い果たしぐったりとうなだれて岬の端まで歩く。
頭では分かっていた。いるはずがないと。突如として押し寄せてきた虚無感に負け、渇いた笑いを漏らしながら一人星を眺める。
あの日と変わらない凪の星だ。都合の良い願いなど叶うはずもない。
ーーーふと、微風が少年の髪を撫でた。
ここには群生していない向日葵の匂いも付いたそれは、不思議と少年の荒んだ心に染み入った。
「向日葵の匂い…何だか懐かしいな。君のお気に入りだったね」
独白。
「夢でもいい。もう一度だけ、君に会いたい…」
少年は願った。もう叶わぬと一度は投げ捨てたが、それでも…それでも…と。あの日伝えられなかった、たった一つの想いを風に乗せて。
いつまでも、君が好きだ