凪の星
今年もこの季節がやってきた。
じりじりとした熱気が辺りを満たす祭場は、相も変わらず華やかで実に雅。
立ち並ぶ屋台、雄々しき太鼓の音、立ち止まる程に目を奪われる踊り…など、訪れた者達の感情に絶えず訴えかける。
そんな「喜」の想いを集めたこの場所に、若い恋人達の姿があった。
2人は仲睦まじく屋台を楽しみ、付き合い始めた頃のなど他愛のない話で会話に花を咲かせていた。
少女は生まれつき身体が弱く、普段は祭りのような人気の多い場所は行けないのだが、
少年が「どうしても」と無理を言って頼んだのだ。
始めは少女も不安そうな様子を覗かせていたが、少年の細やかな気配りの甲斐あってか
十二分に祭りを堪能できているようだった。
そんな心優しい少年には夢があった。
医師になることだ。
その夢が叶えばきっと、少女の身体を治してあげることが可能になるのだと信じて止まない。
しかし、面と向かって少女にそんな話をすれば『私の為に自分を犠牲にしないで』…と怒られてしまうのが目に浮かぶ。
それ故に、少年はひっそりと短冊に願いを書き記し何事もなかったように振る舞う。
少女に幾度聞かれようと、恥ずかしいからと誤魔化して。
後に辿り着いた岬で光を見た。
とても綺麗な、はっきりとした一筋の光だ。
流れ星には願いを叶える力があると古来より伝えられている。
想い人と一緒にこの星を見られたのは、きっと特別な意味があるのだろうと感じた少年は、強く・・・強く星に願った。
勿論、少女には内緒でだ。
そんな折、また少女がしつこく尋ねてくる。
「はぐらかさないでちゃんと答えてよー。短冊に何を書いたの?」
「ああ、それはね・・・